カスタマーサクセスに全力舵切りで10倍の事業収益に成長、クラウドサインに見る顧客の声の生かし方

 製品・サービス提供後も、顧客企業の成功を第一として積極的に伴走を続ける「カスタマーサクセス」を取り入れようとする動きが日本でも活発化し始めている。本連載ではカスタマーサクセスに取り組む企業とその立役者を連載形式で取り上げ、具体的な施策やうまく推進するための秘訣などを紹介する。


 「クラウドサイン」というITサービスをご存じだろうか。無料で契約締結ができるWeb完結型のクラウド契約サービスで、契約書だけでなく、発注書、請書、納品書、検収書、請求書、領収書など、さまざまな帳票の対外的なやりとりに利用できるサービスとして、弁護士ドットコムが2015年にスタート。いまや導入企業は3万社を突破しており、昨今の急成長サービスの1つに挙げられる。

 その急成長の要となっているのが、同事業部のカスタマーサクセスチームだ。カスタマーサクセスへの取り組みを本格化する前と比較して、クラウドサイン事業部の月間売り上げは実に10倍以上にもなっているという。カスタマーサクセスチームはどのような施策を実践しているのか? 顧客の声をどう集めて、どのように生かし、どう事業収益の拡大へと結び付けているのか? ヘッドオブカスタマーサクセスの岩熊勇斗氏にお話を伺った。

カスタマーサクセスの最終的な目的は、自社の事業収益にいかに貢献できるか

――貴社のクラウドサイン事業部では、いつ頃からカスタマーサクセスに取り組まれているのでしょうか?

岩熊氏:クラウドサインというサービスを立ち上げた2015年当初から、事業部長と私の2人で、プロダクトマーケットフィットに向けてお客さまと対話するということを繰り返してきました。クラウドサインは「お客さま第一」に共感性のあるメンバーでスタートしており、そういう意味では、サービスを立ち上げたときから、カスタマーサクセスに取り組んでいます。2017年に、事業としてドライブをかけていこうというタイミングで、カスタマーサクセスチームが発足し、カスタマーサクセスへの取り組みを本格化しました。

――実際のカスタマーサクセスの活動について、貴社では顧客の声をどのように集めて、それをどのように活用していらっしゃるのでしょうか?

岩熊氏:人数が少なかった頃は、事業部長や私が直接顧客から伺った声を社内へ積極的に発信して、機能開発や改善を進めていました。サービスを立ち上げて間もなく、クラウドサインにチャットサポートのサービスを導入しており、そこで広くお客さまからの要望を受け付けるようにしました。そこでいただいたお客さまからの声は、Slackのチャネルに自動連携させ、エンジニアもデザイナーもディレクターも事業部長も、カスタマーサクセス以外のメンバーも全員、お客さまからいただいた声はちゃんと見ましょうということにしています。

 例えば、不具合かもしれないという声があったとき、カスタマーサクセスチームがエスカレーションする前に、エンジニアがそこを見て、先回りして「たぶんこうかもしれない」と対応してくれることもある。お客さまの声をちゃんと見ることは、徹底されていると思います。

 また、カスタマーサクセスは顧客の成功を支援することですが、単なる慈善活動ではありません。私たちのチームでは、カスタマーサクセスの目的を最終的に自社の事業収益にいかに貢献するかだと捉えています。ですから、お客さまからいただいた要望は、MRR(月間定額収益)などの定量データと関連付け、優先順位を付けてプロダクトへフィードバックするようにしています。月1万円でご契約中のお客さまが3社上げている要望なのか、月100万円でご契約中のお客さまが3社上げている要望なのか、同じ3社でも事業に与えるインパクトは異なります。プロダクトチームが最終的な意思決定が行えるよう、客観的な収益インパクトにひも付けて優先順位をつけるまでをカスタマーサクセスチームの方で行っています。

岩熊 勇斗 氏
弁護士ドットコム株式会社 
クラウドサイン事業部 カスタマーサクセスチーム ヘッドオブカスタマーサクセス

「とにかく要望ためるシート」「顧客分類して考えるシート」…独自のスプレッドシートで、プロダクトへ顧客の声を渡す

――カスタマーサクセスチームが、改善の優先順位まで付けてプロダクト側へフィードバックしているとは、ちょっとした驚きなのですが、顧客の声の生かし方で、貴社なりに工夫されている点は?

岩熊氏:メールなどでお客さまからいただいた要望は、必要があればきちんと対話し、表面的な要望ではなく、本当の理由であるインサイトを突き詰めた上で、「CSフィードバックシート」というスプレッドシートへ蓄積するようにしています。そこには、どんな要望か、要望が発生した背景やインサイト、改善することで誰がどんなメリットを得るのかなどを記入して、MRRや従業員規模などで分類できるようにしています。

 さらに、この改善が行われることによってエキスパンションMRRが発生するような要望なのか、チャーン(解約)を防止する改善なのか、直接売り上げにはつながらないがユーザビリティを向上させるものなのか、われわれの業務が改善され間接的にお客さまへメリットがあることなのかなど、カスタマーサクセスチームの中のプロダクトフィードバックを見直すチームで、このスプレッドシートをもとに週次ミーティングで定性情報を加味して優先順位を決定していきます。

 寄せられた要望の件数だけで優先順位を付けないことが、私たちの工夫点。チームメンバーは結構、野心家ぞろいで、もっとカスタマーサクセスチームの存在感を出していきたいという思いが強い。どうフィードバックすればプロダクトに貢献できるのかを考えて、定量データと合わせて、きちんと優先順位づけをして、この改善を行うとどんなビジネスインパクトがあるのかまでをも伝えることが、これまでのレベルを大きく超えていけるのではないかと進めてきました。プロダクトフィードバックのレベルを上げるというのは、カスタマーサクセスチームの評価と連動する目標の1つになっています。

顧客の声を「取りに行く」活動も積極的に実践、KPIは、メンバーの行動指標に設定

――チャットやメールで声を寄せた顧客以外にも、クラウドサインに対する要望が潜在化している顧客群が存在していると思います

岩熊氏: もちろん、顧客の声を取りに行く活動も行っています。クラウドサインというサービスは契約という業務が発生する企業の全てがターゲットとなるのですが、特に、私たちの事業収益上、ここはインパクトが大きいだろうなというお客さまに対しては、関係構築のために、定期的にお会いするようにしています。

 そこでは、「使ってみてどうですか?」「使っている人がどういうアクションを起こすようになっていますか?」「他のお客さまでこういう事例があって、こういう要望をいただいていたりするのですが、貴社の場合はどうですか?」などと投げかけて声を引き出します。事例はなるべく開示をするようにして、お客さまがなんとなく困っているということと、われわれが認識していることと合わせて、要望は何だということを引き出す活動を定期的に行っています。

――貴社の場合、カスタマーサクセスのKPIはどこに設定していますか?

岩熊氏:KPIに関しては、組織のフェーズに合わせて都度考えながら変更しています。例えば、チャーンレート(解約率)や、エキスパンションMRR(既存顧客からの拡大収益)はいくら積み上がったかなどは、いろんな複合要因のもとに表わされる指標なので、カスタマーサクセスチーム単体が追うべきKPIとはしていません。どちらかというとメンバーの行動をダイレクトにKPIに設定しています。サポート領域を見ているメンバーは、チャットサポートに対しての回答の時間であったり、そこで得られるフィードバックの満足度であったり、そういうところをKPIにしています。個別対応のお客さまでは、オンボーディング(「使い続けたい」と思ってもらえる体験の提供)のパーセンテージをKPIに設定しています。

顧客の担当者の給与が上がった――これこそ、最高のカスタマーサクセス

――カスタマーサクセスチームは、どのような体制で顧客の成功を支援していらっしゃるのでしょうか?

岩熊氏:兼任も多いのですが、チャットサポートを担当するメンバー、プロダクトフィードバックを推進するメンバー、 個別顧客対応やオンラインでのオンボード支援を主に担当するメンバーで構成されています。人数は事業部全体の構成人数のうち約20%ですので、かなりのリソースをカスタマーサクセスに割いているということになるかと思います。実際、カスタマーサクセスに本格的に取り組む前と比べて、事業部の月間売り上げは10倍以上にもなっていることから、カスタマーサクセスに舵を切った会社としての判断は間違っていなかったと思います。

 人数が増えて、チームを分けるタイミングで、弁護士ドットコムが掲げるビジョンやミッションバリューとは別で、クラウドサインとしてのビジョン、ミッションバリューを掲げました。そのときに、みんなでワークショップを実施して、マネジャー陣で最後に言語化したのですが、そのバリューの1つに、「カスタマー センタード デザイン」というのがあります。この組織でいちばんなのは、事業部長でもなくカスタマーサクセスチームでもなく、お客さまだというのを明文化して大事にしています。そのバリューにきちんと賛同していただける方に入社していただくようにもしています。

 ちなみに、クラウドサイン事業部は独自に採用をしているのですが、入社すると「クエスト」といって、所属チーム以外のメンバー全員と1on1で仕事するというのがあります。そこで既存メンバーは自己紹介と、事業部のビジョン、ミッションバリューの中で自分がいちばん大切にしているものを話すようにしています。何人かは「Customer Centered Design」を挙げていると聞いています。

クラウドサイン(弁護士ドットコム)のオフィス

――最後に、カスタマーサクセスという仕事のいちばんの面白さは何だと思いますか?

岩熊氏:1年半ほど前に、大きなプロジェクトでクラウドサイン導入のお手伝いをさせていただきました。すぐに全社導入というのは難しいので、トライアルから始めてみましょうとなり、トライアル対象の部署の担当の方が結構大変な思いをして、導入まで一緒にたどり着いたのです。

 導入してしばらくして連絡が入りました、これまで収益を上げるような部署ではなかったのに、クラウドサインを使うことで初めて収益が上がるようになったと。それは、全社的にも注目されて、彼は社内で表彰されて、給与も上がったという、そんな連絡をいただいたときは、このカスタマーサクセスという職種は面白いと心から感じた瞬間でした。担当者の方の給与が上がるなんて、たぶん最高のカスタマーサクセス(笑)。これは、自分の中の大きな原体験で、これからもカスタマーサクセスチームで1人でもそういうお客さまを増やせたらいいなと思っています。目の前の人が喜ぶことが、自分たちの事業を拡大していくことに直結する。そこにとてもやりがいを感じています。


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