Dropboxのカスタマーサクセス事例――オンラインストレージからコラボレーションツールへと進化するために掲げるKPIとは?

顧客データを青、黄、赤の信号で見える化し、声なき声を把握

カスタマーサクセス事例:カスタマーサクセスの夜明けとは
 製品・サービス提供後も、顧客企業の成功を第一として積極的に伴走を続ける「カスタマーサクセス」を取り入れようとする動きが日本でも活発化し始めている。本連載ではカスタマーサクセスに取り組む企業とその立役者を連載形式で取り上げ、具体的な施策やうまく推進するための秘訣などを紹介する。


 Dropboxとは何かと問われれば、オンラインストレージと答える方が多いだろう。確かに2014年、日本において鮮烈なデビューを飾ったDropboxは、オンラインストレージとして数多くのユーザーに迎え入れられた。しかし、日本上陸から5年、Dropboxはオンラインストレージとしての枠を超え、働き方改革の追い風を受け、今やコラボレーションツールとして進化を遂げているのだ。

 「私が入社した2015年頃は、NASの代わりにDropboxという認識で、ファイルサーバと同じ感覚でした。今もそういった認識の方はかなり多いのですが、徐々にコラボレーションのプラットフォームだというところが認知され、お客さま自身もそういうところに問題意識を持たれていて、コラボレーション効率化のツールだという声もよく聞かれるようになりました」と語る同社 カスタマーサクセスチーム テクニカルアーキテクトの岡崎 隆之氏へ、サービスの進化によって、カスタマーサクセスの活動やスタンスはどのように変わったのかを中心にお話をお伺いした。

カスタマーサクセスマネージャーとテクニカルアーキテクトが、要望に応じて効果的に顧客を支援

――貴社は、いつからカスタマーサクセスに取り組まれていますか?

岡崎氏: 日本法人であるDropbox Japanが設立されたのが2014年。それからちょうど1年ぐらいたった2015年10月に、カスタマーサクセスチームを立ち上げて活動をスタートしています。Dropboxのビジネス版が1年で法人のユーザーにも利用されるようになり、大口のお客さまも増え始めて、顧客との関係性をより強くしていこうということで、カスタマーサクセスチームが立ち上がったというわけです。

岡崎 隆之氏 Dropbox Japan株式会社 カスタマーサクセスチーム テクニカルアーキテクト

――カスタマーサクセスチームはどのような体制で活動を行っていますか?

岡崎氏: カスタマーサクセスマネージャーとテクニカルアーキテクトの2つの役割があります。カスタマーサクセスマネージャーは、規模に応じてお客さまを分担しており、1人のカスタマーマネージャーが数10社を担当し、お客さまのサクセスのために活動を行っています。

 テクニカルアーキテクトは、カスタマーサクセスマネージャーからエスカレーションを受けて動きます。カスタマーサクセスマネージャーだけで解決できない技術的なサポートが必要な場合に入ることが多いです。例えば技術的なお困り事や、他の製品と組み合わせたい、DropboxのAPIを使って何かを自動化したいなどのご要望があった時に、要件をヒアリングさせていただいて、サポートしていくのが、テクニカルアーキテクトの役割になります。

――テクニカルアーキテクトは、セールスの方が案件を獲りにいきたい時に一緒に活動されることもあるのでしょうか?

岡崎氏: そうですね。案件の受注がほぼ決まって、次のミーティングでご購入いただくというタイミングでテクニカルアーキテクトがお客さまへお話をさせていただくということはよくありますね。やはり私たちカスタマーサクセスのほうがユースケース情報を豊富に持っていて、いろいろなお客さまとお話をしている分、例えば同じ規模のお客さま、同じ業種/業態のお客さまが「このように使われています」といったその会社に適したユースケースを紹介しやすいのです。実際のユースケースをお話しすることで、お客さまもかなり利用するイメージが膨らんできて「どのように使っていこうか」といった具体的な話がしやすくなりますし、ご購入いただいた後も、私たちはご支援しやすくなります。

利用状況をデータサイエンティストが分析。青信号、黄信号、赤信号の表示で、顧客の“声なき声”を把握

――カスタマーサクセスの実践には、多くの顧客の声を集めることが重要かと思います。顧客の声をどのような手段で集めていらっしゃるのでしょうか?

岡崎氏: いろいろな手段を使っています。まずビジネス版だけでなく個人版も含めたDropbox全てのお客さまにアンケートを送り、その回答をもとに実際の声を拾って、分析を行っています。また私たちカスタマーサクセスも顧客を訪問した際に対面でのアンケートを実施し顧客の声を集めており、その対面ミーティングの中で「こういうふうに使っている」といった声もお伺いします。

――そのようにして集めた声をどのように活用していらっしゃいますか?

岡崎氏: プロダクトの改善につなげていくというのが、最も大切な顧客の声の生かし方かと思います。基本的には、テクニカルアーキテクトが技術的なご要望など顧客の声をまとめて開発チームへリレーし、月1回、定期的にカスタマーサクセスと開発でミーティングの場も設けています。また、大きな機能追加のリリースがあった際には、週に1回程度でリリース後の反応など顧客の声をフィードバックするようにしていますね。

 また、カスタマーサクセス側からは、各要望に対し、どのくらいの数のお客さまが影響を受けているか、例えば特定の1社だけとか、複数のお客さまで同じ問題を抱えているといった情報を加えて開発へ伝えます。開発のほうでは、どのくらいの工数がかかるかなど、いろいろな判断をしながら優先順位を決めていきます。

――アンケートや対面ミーティングでは拾い切れない声もあるかと思います。カスタマーサクセス実践企業でよくあるのは、ヘルススコアで利用状況を分析して、いわゆる“声なき声”を集める方法。貴社の場合、声なき声を拾う仕組みはございますか?

岡崎氏: それはあります。Dropboxの利用状況というデータを蓄積しており、その統計をデータサイエンティストチームが分析をしています。カスタマーサクセスとしては分析されたものをダッシュボードで確認し、Dropboxの利用が下がり気味であるとか、あるいは購入されてもなかなか使われていないなどといったケースを把握し、顧客の“声なき声”を探れるようにしています。分析された顧客データは信号の色分けと同じように、青信号、黄信号、赤信号での表示もされており、赤信号のお客さまから順に利用率改善へのアクションを起こしていこうといったことは行っていますね。

単にDropboxを「利用していただく」ではなく、Dropboxにアーカイブされた「データをいかに活用していただくか」にフォーカス

――カスタマーサクセスチームのKPIは、どこに設定していらっしゃいますか?

岡崎氏: アクティブユーザーの継続率です。ライセンスをご購入いただいたお客さまがどれくらい継続的に使っていただいているかが私たちのKPIになります。1週間で1回でも使えば「1」としてカウントする、WAU(ウイークリーアクティブユーザー)という数字を出しています。例えば、ライセンスを買っていただいて、全く使っていないとゼロカウントになりますし、ちゃんと毎日使っていればKPIであるWAUの数値は上がっていきます。とにかく使っていただくことに焦点を当てたKPIということになります。

 Dropboxはオンラインストレージとして認識されているユーザーが多いかと思います。もちろんデータをどんどん保存しておけることに間違いはないのですが、バックアップのように使われるケースもあります。しかし、バックアップ用に利用されると、一度アーカイブされた情報はめったに活用されることはありません。そういう場合は、私たちのKPI達成率は低くなります。一方Dropboxを使って、出先でiPhoneからデータを確認するとか、あるいはDropboxというプラットフォームを使っていろいろなコラボレーションをしていくとか、そういった利用をしていただくと私たちのKPIはどんどん上がっていきます。

ファイルの同期からチームの同期へ

――つまり単にDropboxを利用することではなく、Dropboxにアーカイブされたデータをいかに活用していだくかということに、カスタマーサクセスの方々は最もフォーカスされているということでしょうか?

岡崎氏:おっしゃる通りです。アーカイブするだけなら、オンラインストレージを低価格で提供されているベンダーはいくらでもあります。しかし、Dropboxの最大の魅力は、「データの共同活用によりコラボレーションを促進し、チームの生産性を向上させる」ことにあると思っています。そのため、私たちはその魅力を感じていただける利用をしていただけるよう日々の活動をしているということになります。

 私たちカスタマーサクセスの活動によって、Dropboxの最大限の魅力を感じていただけるようになり、満足度が上がってファンになっていただける。そうすると、別のお客さまを紹介していただいたり、かなり強力に推奨していただいたりということがあります。私たちカスタマーサクセスの活動が、さらなる製品の利用拡大という成果につながっていくケースも少なくないですね。

――多くの方々はまだ「Dropboxはオンラインストレージ」という認識だと思います。コラボレーションツールとしての使い方ができると周知していくこともカスタマーサクセスの役割ですね。

岡崎氏: はい。おかげさまで、お客さまの認識も徐々に変わってきましたね。2015年頃はNASの代わりにDropboxという認識で、ファイルサーバと同じ感覚でした。当時はシャドーITを無くそうとか、ストレージをオンライン化してBCPに役立てようとか、あるいはコスト削減をしようとか、そういった課題でオンラインストレージを導入しようとする方が多かったのですが、2017年頃から、働き方改革という動きが始まり、これまではIT部門の方だけがお客さまだったのが、人事系の方や現場の営業部門のトップの方や、建設会社だと工事現場の所長などがお客さまに加わって、自分たちの働き方を変えたいとお話されるケースが増えています。

――コラボレーションツールとしてのDropboxは、どのような使い方ができるのでしょうか?

岡崎氏: SaaSのオフィスソフトなどを導入すると、オンラインストレージが無償で付いてくることがありますよね。それを利用しているお客さまでも、Dropboxも使っていただいているというケースが非常に多いです。無償でストレージが付いているのに、わざわざDropboxも使っていただいているのは、Dropboxじゃないと業務が回せないとお客さまが判断されているからだと思います。

 Dropboxはアップロードやダウンロードのスピードが非常に早いことはそれら無償のストレージとの大きな違いですが、コラボレーションツールとしては、コメント機能を使って、対象ファイルのここを修正してくださいというようなコメントを書き込んで、メールの代わりに通知が飛ばせます。これまで「15ページ目の3行目のここがおかしい」「この写真を差し替えてください」などをいちいちメールや電話でコミュニケーションされていたのが、Dropbox上の画面やiPadの画面に直接コメントが書けるので、受け手もコメントをクリックすると15ページ目に飛んで…ということができます。このコメント機能があるから、非常にコラボレーションしやすいとお客さまから評価をいただいていますね。Dropboxに保存してあるファイル上でディスカッションもできます。ファイルの管理が一元化でき、メールでのやりとりがないので、どれが最新版だっけ?ということがまずないですね。

お客さまがゴールに到達するには、お客さま自身が変わらなければならない。人にやり方を変えてもらうのはとても難しいが、そこが一番のやりがい

――そのようなDropboxを導入したけど利用していない、その要因で一番多いのは、どんなことでしょうか?

岡崎氏: 担当の方が忙しくて放っておくというのが一番多いですね。とある部門の現場の方が要望を上げ、「じゃあIT部門が代表して全社分のライセンスを買いましょう」となり、その部門までは展開をしても、1000ライセンスあるうちの100ライセンスまでは使ったけど、ITの方がすごく忙しくなり、他の部門へなかなか展開しないということが多いです。それで、更新時期を迎えた時に、100ライセンスしか使っていないから100ライセンスの更新でいい…となってしまうこともあります。

――そういったケースの時、カスタマーサクセスはどういう活動をされるのですか?

岡崎氏: 簡易マニュアルやオンラインマニュアル、オンライントレーニングをご案内したりします。また、社内ポータルで資料がある場所のリンクを載せていただいたりといった活動を行います。忙しいと社内展開をできない人には、「すみませんがこれだけやっておいてください」とポイントを絞ってお願いします。

――今後、ますますユーザー数は増えていき、けれどもカスタマーサクセスの人員は限られているといった状況が訪れるかもしれません。そのあたりはどうカバーしていくお考えでしょうか?

岡崎氏: どうしても1人がカバーできることは限られていますので、お客さまが増えた分、人員を増やしていくというのが1つあると思います。プラスアルファとして、「プロダクトに入れ込んでしまったカスタマーサクセス」というのもあると思います。例えば、ご購入いただいてしばらく何もしないと勝手にメールが飛んで、トレーニングを受けてくださいと案内する仕組みがあります。またDropboxにログインすると、これをやってみませんか?といった情報が出てきます。最初のオンボーディングの手間というのは、自動的に行えるように少しずつ整備しつつあるため、カスタマーサクセスチームの“人員”としては、基本的な使い方より「実際のお客さまの課題とゴールにどれだけDropboxが貢献できるのか」といったところにフォーカスしてお話しできるようにして、カスタマーサクセス自体の生産性が上がるようにしています。

――最後に、お客さまとの接点の中で、岡崎さまご自身がカスタマーサクセスを実践して良かったと感じたエピソードなどをご紹介いただけますか?

岡崎氏: カスタマーサクセスの活動は、業務をもっと効率良くするとか売り上げをもっと上げていくといったゴールに対して貢献していくのが一般的かと思いますが、お客さまがゴールに到達するには、お客さま自身が変わるというプロセスを踏まないといけない。そこがやりがいのあるところなのですが、人にやり方を変えてもらうのは、かなり難しいことです。そこを乗り越えて、Dropboxの活用を通じて、ファンになっていただき、そのお客さまが他のお客さまへDropboxを広めていただいている話を聞いた時が、一番良かったと思える瞬間ですね。現場のA部長が、他の会社のB部長に勧めていた、その場でiPadを使ってデモまでしていたという話を聞いた時には自分たちの活動の成果を肌で感じました。


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